『生、なお恐るべし』アーバン・ウェイト

なんだか異様に出版社が一押ししていて、こういう場合、騙されてがっかりする可能性も高いけれども、文庫本だし、タイトルからしてなんだか謎めいていて興味をそそるし、まあ騙されてもいいかと思って読んでみた。
で、読み終えてみるとなんとも形容しがたい話。
意表をつく驚きがあるわけでも、手に汗握るサスペンスがあるわけでも、陰鬱な惨劇があるわけでもなく、興奮して、これは傑作だと叫びたくなるわけでもない。
なのに、不思議と読むペースを落とさせないという点では凄いと思うのだが、この本の本当の凄さは多分そういう表面的な部分には無いのだと思う。
解説にもあるように、作者が、物語ではなく、この主人公を描きたかった、という部分にこの本の面白さがあるのだろう。
主人公は54歳。中年を越えて老年に差しかかる歳。若いときに殺人を犯して人生に失敗し、結婚してささやかな牧場を経営しつつも麻薬の運び人をして生計を立てている。人生のやり直しなど難しい時期に来ている。
だからこそ何が何でも今の生活を守らなければいけなくって、しかし、だからといって他人を蹴り落としたり見捨てたりもしきれない。そんな主人公の精一杯あがき続ける生きている様が、読んでいてしみじみと伝わってくる。

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