『カラスの親指』道尾秀介

扱っている題材がコンゲームというせいだろうか、どことなく伊坂幸太郎の小説っぽい感じもする。
今までの作品にまるっきり無かったというわけではないが、弱者に対する視線の暖かさが顕著にでているという点もそう感じさせる原因のひとつかもしれない。
騙すというよりも、あらゆる要素に二重の意味を持たせようとしているあたりは、このままこの方向を突き詰めていったらひょっとしたらジーン・ウルフとかサミュエル・ディレイニー並みの、表層レベルと深層レベルとで全く異なる話を同時に存在させてしまうようなとんでもない話を書いてくれるんじゃないかと思ったりもするけれども、多分それは無いだろう。
伊坂幸太郎の小説を読まなくなって久しいのだが、それは伊坂幸太郎の話がなんとなく鼻につくようになってしまったからで、それを思うと、この話がどことなく伊坂幸太郎っぽいところが少々気がかりなところだ。
作風が変化してしまうのは仕方がないけれども、これからも、目的の為であれば登場人物を平気で不幸な情況に陥れてしまうような突き放した話を書いて欲しいと思うのだ。

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