長いこと積読で、しかもどこにあるのかもわからない状態になってしまっていたので、新訳版を買って読むことにした。探し出すより買った方が早いというのは真理なんだけれども、まああまり褒められた行為ではないのでできる限りこういう事はしないようにしようとは思っているけれども、しないようにするのは多分無理だ。
今回は単純に新訳というだけではなく、今までの翻訳では省略されていた著者注までしっかりと翻訳されているという点が大きく異なるわけだけれども、しかし著者の注釈がたくさんあるのかというとあまりなく、というか、省かれていただけあって、無くてもかまわないレベルの分量だったけれども、その一部は、著者がいかに丁寧に伏線を張っていたのか、もしくは時系列をきっちりと書いていたのかという自画自賛的な内容だったのには笑えた。
しかし、読み終えてみると作者が注釈を入れてまでも自画自賛したくなるのもわからないでもない傑作だった。この作品に影響を受けた作品が結構存在していて、そちらのほうを先に読んでしまっていたりすると衝撃度は下がってしまうけれども、しかし、もともと怪奇趣味的な現象によって起こったとしか思えない事件を、超自然的な要素を抜きにして合理的に解決する形態のミステリを多数書いていた作者がこういう話を書いたということに意味がある。
ヘレン・マクロイの『暗い鏡の中に』と同系統の話だと思っていたので、どちらの解釈を取るのかは読者次第という結末になるのだろうと思ったのだが、そうではなかったのが少し残念。合理的な解釈と超自然的な解釈とが同レベルでせめぎ合うという点では『暗い鏡の中に』の方に軍配が上がると思う。
『火刑法廷』ジョン・ディクスン・カー

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