『おやすみラフマニノフ』中山七里

時価2億円相当の楽器が鍵のかかった密室から盗まれるというミステリ的な謎から始まりながらも、殺人事件が起こるわけでもなくミステリ度は意外と前作よりも低い。冒頭で起こった楽器消失事件でさえも事件そのものを警察沙汰にしないせいもあってか捜査らしい捜査も行われないし、そもそも語り手の主人公はそういった事件に対して悩むよりも自分自身の才能と将来の方に対して悩んでいるわけで、音楽の世界に生きる青年の青春物語というほうに比重が傾いている。
なのでミステリとしてみると事件の真相といった部分にはちょっと肩すかしをくらった気分になるが、しかし、音楽に関する部分は前作と同様に素晴らしく、演奏シーンは活字でありながらも読みながら情景が浮かぶ。音楽が嫌いでなければ、十分に堪能できる一冊だ。
前作が『さよならドビュッシー』で英語にすると『good-bye Debussy』となる。で、今回の題名は英語にすると『Good-night Rachmaninoff』。ひょっとしてこのシリーズは「Good」+「○○○」+「作曲家」というネーミング規則になるのだろうかと思った。

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