『死者の輪舞』泡坂妻夫

ジョイス・ポーターが生み出したドーヴァー警部は「史上最低の探偵」とも言われ、ジョイス・ポーターは名探偵がかならずしも性格が良かったり、頭が良かったりしなくても通用するということを証明してみせた。
日本においても和製ドーヴァー警部と言われるキャラクターが生み出され、海渡英祐の吉田茂警部補や、赤川次郎の大貫警部がいて、泡坂妻夫の海方刑事もその流れだと思っていたけれども、作者の言葉によるとモデルとなった実在の人物がいるということで、海方刑事に関してはドーヴァー警部の流れとは違うようだ。
海方刑事が活躍する物語『死者の輪舞』と『毒薬の輪舞』の二冊のみ。三作目の『紙幣の輪舞』は予告されたものの書かれずじまいで終わってしまった。
タイトルから想像できるように、一見無関係に見える次々と人が殺され、そのミッシング・リンクの謎を追う話だが、強烈なのはやはり海方刑事の存在と行動様式だ。
この海方刑事、ドーヴァー警部を想像して読むと、意表をつかれるくらいに頭が切れる。出された紅茶の銘柄も言い当てるし、女性の服がどこで買われたものなのかもさりげなく言い当てる。
自分の運を強運にするためにわざと出世せず、できる限り運を使わないようにして、その溜めた運を競馬で使おうとするあたりは、強かなのか馬鹿なのかよくわからなかったりするけれども、競馬での的中率はかなり高く、かなり稼いでいるのだ。
事件に関しても、ときおり的確な指摘をしてミッシング・リンクの謎を解き明かしてしまう。図々しく、したたかでそれ故に強烈な個性の持ち主で、そんな彼の活躍が二作で終わってしまったのは残念だ。

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