新本格派世代の中で、歌野晶午の作品に登場する信濃譲二はエキセントリックな探偵なのだけれども、それを上回るというと麻耶雄高のメルカトル鮎になるのだろう。
メルカトル鮎という名前からして既に奇抜だけれども、名探偵ではなく銘探偵と名乗っているところからして既に異常だ。北村薫の巫弓彦も「名探偵とは、存在であり意志である」とのたまい、路傍に死すも覚悟の上と、ある日突然、名探偵として生きる道を選んでしまう変人だけれども、その行動はわりと普通であるのに対して、メルカトル鮎の場合は行動も普通ではない。
そもそもデビュー作で殺されてしまい、それ以降に発表された作品は、それ以前に解決した事件の話であるとして語り続ける作者も面の皮が厚いというか、こういう作者だからこそこういう探偵を活躍させることができるのかもしれない。
名探偵という設定である以上、探偵役の推理力は高くなくては話にならないのだが、推理能力が高くなればなるほど、事件の真相を見抜く時間は短くしなければいけなくなり、結果として探偵が活躍する時間は短くなる。メルカトル鮎の場合もそれを自覚しているせいか、自分は短編向きの探偵だと言う始末。で、結果としてこの本は短編集となっているのだけれども、メルカトル鮎の長編での活躍を読んでみたいという気持ちはあるので、いつの日か、最初から最後までメルカトル鮎が暗躍しまくる長編を読んでみたいものだ。
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