市川春子の絵は眩しい。
白と黒のコントラストが強い絵なのでそう見えるのだが、読んでいてその眩しさにとまどう時がある。
しかしその眩しさとは裏腹に、そこに描かれている世界は不思議に満ちていて、その不思議さをありふれた日常の世界に詰め込んでいる。
表題作は、子供の頃に起こった弟の怪我に対して負い目を感じている姉と、その姉に対して複雑な心境を持っている弟の話だが、姉と弟との間にあるもの凄く繊細な感情というものを描きながら、研究していた深海の生物が劇的な進化を遂げ、その結果内側から侵食され人以外のものに変貌してしまった姉という骨太なSF的な設定を同時に描き、強引ともいえる形で双方を描ききってしまうという離れ業の話だ。
内側から侵食され、内蔵も脳も全て食われてしまい、硬質な皮膚だけの存在と化してしまうという情況はビザール的で、姉と弟との間にある複雑な思いが、姉が人以外のものになってしまったことで愛してはいけない存在から愛してもかまわない存在へと変貌する背徳感さえも感じさせる。
前編・後編と分かれていて分量的にもこの本の半分を費やしているのだが、表題作があまりに凄すぎるので残りの二編は少々物足りなく感じてしまった。
コメント