わかりやすい話からわかりにくい話まで千差万別。
エドモンド・ハミルトンの「フェッセンデンの宇宙」のイーガン版ともいえる「クリスタルの夜」は、コンピュータ内で作り上げた人工生命に対する人権という問題を扱いながらも、作中の中ではそんなことお構いなしで好き勝手なことを人工生命に対して行うという身も蓋もない話だが、結末はもっと身も蓋も無さ過ぎて笑える。一方「エキストラ」の結末の身も蓋もないという点で素晴らしいけれども、こちらの方はちょっとゾッとさせられるホラー寄りの話。
「ルミナス」の続編の「暗黒整数」は主人公達とは別の人物が、「暗黒物質」ならぬ「暗黒整数」という概念でもって主人公達が前作で発見したものを見つけてしまう話だが、この人物がその為に書いたプログラムが面白い。「暗黒整数」を扱うために「dark」という独自定数を定義してしまうのだ。名付けて暗黒整数型。
基本的な物語は前作と共通しているので新しさはないけれども、主人公達が計算で対抗するために考え出した手法が面白い。
ネットに繋がった世界中のコンピュータの空き時間を利用してデータ解析を行うという手法は「SETI@home」や「白血病解析プロジェクト」といった形で現在でも行われているが、解析が行われていることを秘密にしておきたい主人公は、ネット上のパケットの流れをオン・オフとして扱ってネットに接続されたコンピュータではなくネットそのものを解析装置としてしまうのだ。
いやはや、この考え方は考えようともしなかったので驚いてしまった。
「伝播」はなんとなく星野之宣が描きそうな話で、読んでいて星野之宣の絵が浮かんできた。
表題作は……あんまり好みじゃなかったよ。
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