『さして重要でない一日』伊井直行

  • 著: 伊井 直行
  • 販売元/出版社: 講談社
  • 発売日: 1993/07

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伊井直行の小説は少しずつ読むつもりでいるのだが、この本は220ページ程度と薄い本でしかも文庫本なので、あまり整理のできていない僕の部屋の中に置きっぱなしにしておくと埋もれてしまい、読みたいときに読むことができなくなりそうな感じだったので、それを理由にして自分自身を納得させ読むことにした。
「さして重要でない一日」と「パパの伝説」の二編が収録されている。
表題作は、コピー機が故障していて乱丁になってしまったのに気付かずコピーを配布してしまった主人公が、コピーを回収しつつ、正しいコピーを取りなおそうとする一日を描いた話なのだが、北野勇作が書いてもおかしくないような不条理な展開をする。
主人公はなぜだか女子社員から嫌われていて、主人公の勤める会社には社内郵便局ともいえる「社内局」というものが運営されていて、しかもそれを運営しているのはその会社の何処かの部門ではなくその会社が契約している警備会社だったりする。主人公がコピーの原本を探し回っててんやわんやしている合間にその「社内局」が成立したいきさつが明らかになったり、いざ、コピーを取ろうとすると、どのコピー機も使用中で主人公はコピーを取ることができない。そうこうしているうちにどんどんと会議の始まるタイムリミットが近づいてくる。
そんな話の合間に、人を殺したという主人公の同僚の話が挟み込まれ、なんというか、ちょっとズレが起こると、当たり前の世界が一転して異質な世界になってしまう驚きの世界で、どこにでもありそうなごく普通の会社の一日をこんな風に描いてしまう伊井直行の引き出しの多さに感服してしまった。
「パパの伝説」は「さして重要でない一日」に比べれば遙かにわかりやすく読みやすいのだが、読みやすさに気を取られて読んでいくと屈折した人間関係の闇の部分が突如現れ唖然とさせられる。そこで起こった出来事の悲惨さに比べて飄々とした語り口が唯一の救いだ。

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