『リリエンタールの末裔』上田早夕里

  • 訳: 中村 豪志
  • 著: 上田 早夕里
  • 販売元/出版社: 早川書房
  • 発売日: 2011/12/8

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表題作は『華竜の宮』と同じ世界の別の話なのだが、同じ世界にする必要性はあまりないような気もする。もっとも、同一の設定にすれば余計な説明を省くことができるので、それを思えば同一にしてしまった方がいいのだろう。
それはともかくとして、空を飛ぶということに対する情熱の物語としてよりも、自己と他者の関係において、同じ立場であっても差別は発生するという考え方が読み終えてもなお強く残り続ける。
二番目の「マグネフィオ」は切ない話だ。損傷した脳の機能を再生させるという技術から始まり、心を読みとるという方向を経て、二人の登場人物が選択した技術と選んだ事柄は、狂気と紙一重であるのだけれども、愛する対象と一つになりたいという気持ちゆえの結論であり、だからこそ、一抹のおぞましさと切なさが胸に染み入る。
三番目は既読だったので飛ばしたが、書き下ろしでありながら一番の分量を持つ「幻のクロノメーター」は驚かされた。語り手がどういう存在なのかは初期の段階でおおよそ予想はつくのだけれども、史実と偽史を組み合わせた物語の展開においてあのような話になるとは予想もしなかった。派手な話ではないけれども、技術と人の関わりが丁寧に描かれていて、こういう話は凄く好きだ。

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