主人公は、主君が跡取りに恵まれず、その結果お家断絶となったために浪人生活を強いられることとなった武士。
当初は再仕官を目指して就職活動をしたものの、さして秀でた能力があるわけでもなく、足が速いという程度の身としては仕官の道はただただ遠いわけで、笠張りをして糊口を凌ぐ日々を送っている。
跡取りがいないだけでお家断絶になってしまうという決まり事は江戸時代特有のもので、これはこれで厳しい物があるけれども、それを除けば就職浪人という主人公の身の上は、江戸時代ではなく現代でも全く同じ事が有り得ることを思うと、数百年もの年月が流れても何も変わっていない厳しさというものがあることを実感させてくれる。
由比正雪の「慶安の変」を題材にとり、史実の中に架空の主人公を紛れ込ませ、その主人公の目から見た「慶安の変」というものを語らせるその語り口はなかなか面白い。特に、この物語での由比正雪という人物像は斬新でユニークだ。
史実に虚構を交えてはいるけれども、物語の大枠は史実と同じで、結末は史実どおりの結末となる。とりわけ、自分はもちろんのこと、家族も同様に処刑されることがわかっていながらも大義の前に自分のなすべき事を行った脇役、丸橋忠弥の姿が読後、重く横たわる。
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