読み終えて、とてつもなく広いこの世界の、あちらこちらの土地を旅してきたような感覚に襲われた。
著者の紡ぎだす文章の調べに乗せられて、アメリカ、メキシコ、さまざまな土地を巡り歩き、そしてその土地を見る。
言葉のリズムに乗せられて、次から次へとさまざまな土地のさまざまな光景が、眼前に広がる。
そう、僕は旅をしてきたのだ。
百聞は一見にしかず、ということわざがある。
人から聞くよりも自分の眼で見たほうがわかりやすい、という意味なのだが、時として逆も成り立つ。
つまり、百見は一聞にしかず、だ。
自分自身に物事を見る力がなければ一見したところで理解のしようもないこともある。
そういう場合、語りのうまい人から一聞したほうがはるかに理解が進むのだ。
百聞は一見にしかずが常に正しいと思っている人は、本当にうまい人の語りを聞いたことのない人だろう。
『狼が連れだって走る月』という題名を見たとき、この本は面白いに違いないという予感があった。どこかで聞いたことのある作者だと思って調べたら、角川つばさ文庫の『星の王子さま』の翻訳者であり、エイミー・ベンダーの『燃えるスカートの少女』などの翻訳者だった。
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