ものすごく久しぶりに土居良一の新刊を目にした。
といっても僕は土居良一の良い読者ではなかった。
僕が初めて土居良一の本を読んだのは、1984年のことだった。鈴木英人の表紙の講談社の文庫『カリフォルニア』だ。
それまで身も知らなかった土居良一の本を何故手に取ったのかといえば、そのころ村上春樹の『風の歌を聴け』を読んで村上春樹にはまっていたのと、吉田秋生の『カリフォルニア物語』にはまっていたせいだ。
なんとなく、土居良一のこの本から両者のにおいを感じ取ったのである。
もっとも、今となってはどんな内容だったのかさえも忘れてしまっているのだが、作品全体を流れる雰囲気は気持ちよく、そして当時の懐かしさは今でも自分の中に残っている。
ただ、残念なことに、土居良一はそれほど多作でもなく、文庫化される作品も少なく、その後の作品も『カリフォルニア』のような雰囲気の作品でもなかったのでいつしか読まなくなってしまった。
が、今回、講談社文庫で文庫書き下ろしという形で新作がでた。
題名からして『カリフォルニア』とはまったく異なる内容であるのはわかりきっていたのだが、『カリフォルニア』という小説が好きだったのに、他の作品を今まで読まないでいたことに対する後ろめたさのようなものがあり、読むことにした。
年代的には織田信長の戦国時代から豊臣家が滅ぶあたりにかけての時代、蝦夷地、つまり北海道を治めた松前藩の祖・蠣崎一族の物語だ。
巻頭に家系図と地図があるのだが、登場人物は多数、なじみのない地域を舞台にしているせいで、読むのになかなかてこずった。
物語としてのカタルシスは無いものの、戦国時代という時代でありながら武ではなく商によって地を守るという考え、そして中央から離れた地にありながら、情勢をたくみに分析し一族を守る物語はなかなか新鮮で面白かった。
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