前回、ちくま文庫から『トーベ・ヤンソン短篇集』が出たのは2005年のことだった。
それまでトーベ・ヤンソンといえばムーミンシリーズしか知らなかった僕にとって、この『トーベ・ヤンソン短篇集』は衝撃的な本だった。
それから一年後の2006年に『誠実な詐欺師』がちくま文庫から出た。こちらはさらに輪をかけて衝撃的な傑作だった。この後、次々とムーミンシリーズ以外の小説が文庫化されるものだと期待をしていたのだが、それっきりトーベ・ヤンソンの作品の紹介は止まってしまった。
『トーベ・ヤンソン・コレクション』を古書で集めるしかないかなと思って少しずつ集め始めたところで、『トーベ・ヤンソン短篇集』の第二弾が出た。
解説によると、トーベ・ヤンソンのダークサイド側の作品を集めたものだということだ。これは期待しない方がどうかしている。
まず、副題にもなっている「黒と白」。この話の主人公はエドワード・ゴーリーがモデルとなっている。作中で彼が手がけている挿絵の本は『憑かれた鏡 エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談』である。
トーベ・ヤンソンとエドワード・ゴーリーが仲が良かったとは知らなかったが、意外な組み合わせだ。
意外といえば、「狼」には日本人が登場する。『トーベ・ヤンソン短篇集』に収録されている「往復書簡」にも日本人が登場しているのだが、トーベ・ヤンソンは意外と日本人びいきだったのか。
全体的に、色というものがそぎ落とされている作品が多い。華やかな感じで始まった作品でもやがて色が消えていく。あるいは単調になっていく。
それでいて暗いというわけではなく、たぶん、これは白夜という感覚に近いのかもしれない。
だから、ダークサイドという言葉にひかれてそのイメージで読もうとすると裏切られるかもしれない。しかし、色彩を剥ぎ取り、言葉もシャープに研ぎ澄まされたトーベ・ヤンソンの世界は生半可な気持ちで読もうとすると跳ね飛ばされてしまう厳しさがあり、そこに惹かれるのだ。
コメント