『氷平線』桜木紫乃

  • 著: 桜木 紫乃
  • 販売元/出版社: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/4/10

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『ラブレス』という小説が評判になったことで桜木紫乃という作家の存在の存在をはじめて知ったのだが、読もうかどうしよう逡巡していたところでデビュー作のこの本が文庫化されたので迷わず手にとってみた。
荒川弘の『銀の匙』は北海道の農業高等学校を舞台とした青春コメディであり、同時に現代の農業をとりまくさまざまな問題点も描いていて新鮮な驚きを与えてくれているのだが、桜木紫乃のこの本はそれに対するカウンターアタックというか、『銀の匙』が未来に希望のある少年の話であるのに対して、厳しい現実の前に希望を見失った大人の話であり、『銀の匙』を読んでなんだか理解したつもりになっていた事柄が実は表面だけのものであり、見えない水面下もしくは地面の下には夢と希望だけではどうしようもない現実があることをみせつけられた。
北海道の釧路あたりを舞台とする六編。
跡取りとなる孫がほしい父親によって金で買ったフィリピン人の嫁をもらわされる酪農家の息子。酪農家に嫁いだものの、女の子には恵まれるものの男の子には恵まれないために姑から冷酷に扱われる嫁。村の男たちに体を売ることで生きてきた女性。等々。
北海道の厳しい寒さと生活の中でその風土に囚われ、取り込まれながらも生きていく男と女の話だ。
最初はトーベ・ヤンソンの描く世界と似ているような感じがしたが、描かれる色彩という点ではトーベ・ヤンソンと同質でありながらトーベ・ヤンソンよりも艶かしく、生々しい。
そして艶かしく、生々しいのに湿度が低いのだ。
この湿度の低さが後を引く。

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