『極北』マーセル・セロー

  • 訳: 村上 春樹
  • 著: マーセル・セロー
  • 販売元/出版社: 中央公論新社
  • 発売日: 2012/4/7

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書店で見かけたときになんとなく心に引っかかるものがあって、これは面白い本っぽいなと感じたのだが、単行本なので家の収納スペースの余裕を考えると衝動買いするにはちょっと勇気がいて、しばらく悩んだのだが、アーサー・C・クラーク賞候補作ということで思い切って読んでみることにした。
とりあえず極寒の地で生活する人の物語であることはわかっているのだが、訳者である村上春樹によるあとがきを読んでも、近未来の話らしいという程度しかわからないうえに、村上春樹自身が、予備知識無しで読んで見てほしいなどと書いてあるので、とりあえず本文を読むしかない。
主人公の住む世界がどのような状態になっているのかは徐々にわかってくる。
この程度ならば、ばらしてしまっても支障はないだろうから書いておくと、時代は近未来で今よりも進んだ科学技術があるのだが、戦争か何かが起こって文明は崩壊し、温暖な地域には人が住むことが出来なくなり、人々の生活圏は北もしくは南の極寒の地に追いやられてしまった時代の物語だ。しかし、物語の視点はロシアの極寒の地に住む主人公の視点だけなので、南の方がどのようになっているのかはわからない。
コミュニティと言えるレベルの集団組織でさえも数少なくなり、しかもよそ者を受け入れることもしないほど孤立化しているので、文明の復興すら困難な状況にある。
そんな世界を遍歴する主人公の物語というと、コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』っぽい話のようにも思えるかもしれないが、あれよりも波乱に満ちた展開をする。
筒井康隆の『旅のラゴス』に近い雰囲気も持ち合わせているが、一番近いのは『未来少年コナン』じゃなかろうか。
いうなれば、この物語は舞台が極寒の地に限定された『未来少年コナン』の大人版であるといえる。
ラナ的な存在もいるし、ジムシー的な存在もいる。コナンにおける敵であるレプカ的な存在も登場するし、オーバーテクノロジーも登場する。
なんといっても主人公自身が、コナンほどでもないけれども、屈強で不屈の意思の持ち主であるところだ。
村上春樹までが「3.11」うんぬんと言っているのにはがっかりしてしまったが、「3.11」を引き合いに出さなくっても十分に面白いので、終末を預言するような話としてわざわざ持ち上げる必要性もないだろう。
絶望的な未来ならば、レジス・メサックの『半球の弔旗』の方が数段上なのだが、両者の違いは生きる意志のあるなしの違いだ。
生きる意志さえあればどんな時代、どんな場所でも生きていくことができる。それがたとえ一瞬の時間しか生きることが出来ない結果だったとしてもだ。
そして何のために生きようとするのかは人それぞれ異なるわけで、その理由が他人には理解できないような理由だとしても、生きる意志を持って生きているだけでそれは尊いことなのだ。

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