僕が初めて自転車に乗ることが出来たのは小学校の高学年の頃だったからかなり遅い時期だった。
何度か自転車に乗ろうとしたのだが、結局乗ることができなかったので、そのころの僕は一生自転車には乗ることが出来ないだろうとあきらめていたし、まあそれでも構わないかと思ってもいた。
しかし、あるときのことだった。弟の自転車を片付けようとハンドルを手にして自転車を引いていたときに、何故だかわからないけれども頭の中で自分が自転車に乗っているイメージが浮かんだ。
そのイメージがあまりにも鮮明だったので、そのイメージどおりにしてみようと自転車にまたがって自転車をこぎ始めてみた。そしたら、現実がイメージと同じになった。
自転車に乗れているじゃん。という弟の声に、半ば夢うつつの状態から現実に引き戻されて、そしてよろよろとよろけて自転車ごと倒れてしまったのだが、その日から僕は自転車に乗ることが出来るようになった。
そういうことがあってから、今までやったことの無いことをやろうとするときに、それがうまくいく状態を頭の中でイメージするようになった。イメージできない場合は、たいていの場合、実際にやってみても失敗する。もっとも、うまくイメージできたとしても失敗することもあるのだが、それでも、うまくいくというイメージができるということは、何らかの形で、そこにいたるまでの道筋が自分に見えているということで、だからうまくいきやすいのだろうと思う。
『セカンドウィンド』がロードバイクを扱っているのに対して、『スパート!』はピストバイクを扱っている。そして『セカンドウィンド』の主人公が男の子であるのに対して『スパート!』の主人公は女の子だ。
『セカンドウィンド』の女の子版といってしまうと見もふたもないのだが、自転車競技を扱った小説というとロードバイクが多い中、ピストバイクでケイリンというトラックレースを扱った物語は少し新鮮だった。
トラックレースという同じところを回り続ける競技、物語も同じところを回り続けるようでいて、主人公は少しずつ成長し、一回りしてきたときには最初の時よりも少し高い位置にいる。同じ事を繰り返しているようであっても、少しずつ成長していく。読み終えて、なんだか判らないけれども、うまくいくイメージがつかめたような気がする。それがなんのイメージなのかわからないけれども、多分、いつか役に立つ日が来るのだろうと思う。
コメント