『三幕の殺意』中町信

  • 著: 中町 信
  • 販売元/出版社: 東京創元社
  • 発売日: 2012/5/30

Amazon

中町信が亡くなっていたことをすっかり忘れてしまっていた。
そうか、中町信はもういないんだね。
東京創元社の編集長、戸川安宣によって中町信の作品が改稿されたうえで文庫化され、それによって僕も中町信の作品に注目することになったのだけれども、これからだという時に惜しくも亡くなられてしまった。
この本の解説はその立役者であった戸川安宣で、東京創元社で文庫化されるにあたったいきさつなどなかなか興味深い内容が書かれている。特に、中町信がデビュー前、賞に応募して落選した作品を選考者の批評に沿って改稿し、次の年の同じ賞に応募するというものすごいことをしていたのには驚かされた。
この作品は、作者自身が出来の悪い作品だったと認めている初期の短編を長編化したもの。
原型作品は読んでいないので作者の言うとおり駄作だったのかどうかは判らないが、長編化されてどうかといえば、どこかぎこちなさが残る。途中でミステリ談義が入ったり、「謎の男」のモノローグが入ったり、作者からの挑戦状や見取り図、いろいろと趣向が凝らされた構成になっているのだが、全体的にそれがうまくまとまっているかといえばおぼつかない。もっともだからといってそれが瑕疵になるかといえばそうでもないのだが、今回はアリバイ崩しで、さらに被害者が、殺されてもかまわないと思うぐらいの嫌なやつなので、積極的に犯人を見つけたいという気持ちが起こらないのだ。
というわけで、東京創元社から出ている三作にくらべるとちょっと物足りなさが残るのだが、それだけに中町信がもういないことが悔やまれる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました