『この世界の片隅に』以来のこうの史代の新作だ。
『この世界の片隅に』の後に出版されたエッセイ集『平凡倶楽部』が予想外の傑作だったので、それほど長い間待たされたという気持ちはないのだが、『この世界の片隅に』の下巻が出たのが2009年4月なのでだいぶ間が空いていたことになる。
全編やりたい放題、これでもかというくらいにさまざまな手法を盛り込んだ『平凡倶楽部』を読まされた後では、もはや新しいことなどなにもないような気持ちにもさせられるのだが、そんな心配などこうの史代にとっては杞憂にすぎないことをまざまざと思い知らされたのが今回の新作だ。
今回は古事記である。こうの史代による解釈の施された『古事記』ではなく、漫画というよりも古事記という物語に絵を添えたという形で、強いていえば絵物語に近い。文章は古事記の原文そのままで、注釈はあるけれども、こうの史代は基本的に絵で古事記を解釈しているのだ。
全編すべて、ボールペンで描いたというのは一見するとそれほど効果的にも見えず、今までの絵柄との違いもそれほど無い。それは弘法筆を選ばずということでもあるかもしれないが、ボールペンで描くということは色を塗らないということで、読み手としてはそういう思い込みの上で読むこととなる。しかし物語の終盤、最後の方のページでこうの史代はちょっとした仕掛けを施す。『この世界の片隅に』の時もそうだったのだが、こうの史代は、ここぞというタイミングで、効果的な手法を凝らすのだ。
仕掛けといえば、本そのものにも面白い仕掛けがしてあって、最初の数ページはちょっと面白い造りになっている。かつて、『街角花だより』で表紙の紙を包装紙にしただけのことはあって、漫画を描く技術と手法だけでなく本という体裁にも面白い手法を持ち込んでいる。
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