解説の中で、イアン・ランキンが語っていた言葉が興味深かった。
「どこかの国について知りたかったら、その国のミステリを読むといい。一番的確な案内書だ」
意識したことはなかったが言われてみればそのとおりでもある。
基本的にミステリは犯罪を扱う。そして犯罪は影の部分だ。
影を描くには日のあたる場所を描かなければならなく、そして何故影ができるのかを描かなければならない。
人が犯罪を犯すとき、個人的な理由であれ、社会の問題に依存する理由であれ、良質なミステリは、犯罪が起こった社会そのものを描き出す。
で、この物語はどうだったかというと、面白いけれども、ちょっと微妙。
ミステリ小説というジャンルがまだ成熟していない国でのミステリ小説であると考えれば上出来といえるのだが、そういう視点をはずすと、ちょっと物足りない。やはりオビの惹句は、その内容を少し差し引いて受け止めた方がいい。
といっても300ページちょっとの分量で、細かな章立てで、必要な要素は十分に、必要でない要素は完結にという書き方は好感が持てるし、読んでいて楽しい。
しかし、シリーズ物の三作目をいきなり翻訳してしまったわりにはそれほど苦労せず主人公を取り巻く環境をすんなりと受け入れることが出来るのは長所というよりもステロタイプな設定といったほうがいいかもしれない。
アイスランドという見知らぬ国での犯罪は、性犯罪で、そして犯人を捜す刑事たちは封印したい過去を持っている人たちの心を、土足ではないものの乱暴にこじ開ける。
どんな国であっても犯罪はあり、個人が個人を憎み、そして殺人を犯してしまう。この物語がちょっと変っているのは犯人が誰なのか、事件の真相はなんだったのかを終点としているのではなく、犯行を犯してしまった犯人の人生を描くことを終点としているところだ。その点において、桜木紫乃の『凍原 北海道警釧路方面本部刑事第一課・松崎比呂』を読んだときと同じ匂いがした。そして偶然にも桜木紫乃は北海道の凍原、アーナルデュル・インドリダソンはアイスランドの湿地を描いている。
続編も近刊予定になっている。次の話も読みたいものだ。
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