久しぶりの田中啓文の伝奇ホラーだ。
笑酔亭梅寿の<ハナシ>シリーズのような人情系、永見緋太郎が活躍する端正なミステリもたまにはいいが、やはり田中啓文の本領発揮はこういった伝奇物だよなあと思う。
あまり共感しにくい主人公だったり、その主人公をとりまく状況がどんどんと悲惨な状況になっていったり、さらには主人公を助ける側の人間もあまり共感しにくい人物ばかりだったりと、わざとそうしているのかどうなのかわからなかったりもするが、そういった嫌な感じの雰囲気は抜群で、それでいて読みやすいのでどんどんとページをめくることが出来る。
「猿猴」ということで河童系のUMAものかと思ったら、そのものずばりの「猿」づくしで、ホラーテイストでありながら「聖なる物語」などという部分であからさまに笑いを取ろうとしているあたりが田中啓文らしい。
しかし、そういった部分がやはり本格的な伝奇物という部分とは水と油のような感じになってしまい、若干の物足りなさが出てしまうのが残念なところだ。
とはいうもののあれやこれやといろんなものを詰め込んで、ごった煮的な物語に仕上げたと思えば、これはこれで楽しい時間を過ごすことが出来たと思う。
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