『ぼくらは都市を愛していた』神林長平

  • 著: 神林 長平
  • 販売元/出版社: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/7/6

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情報だけを破壊する情報震。
<敵は海賊>シリーズに登場するフリゲート艦ラジェンドラにも、電子機器のほとんどを破壊するCDSという兵器が搭載されているように情報だけを破壊するというのは神林長平の特徴の一つでもある。
情報震によって無人となった東京を偵察する情報軍の部隊の視点と、殺人事件を追う公安刑事の視点、そして双方の視点人物はお互いに姉弟である。
このふたつの視点の物語がどのように結びついていくのか、そして情報震とは何なのか、さらには、「いま集合的無意識を、」の後、どんな言葉、そしてどんな物語を神林長平が紡いでくれるのか、というのが興味の中心となる。
しかし、あらゆるデータ、それが書き換え可能な磁気ディスクに書き込まれたデータが破壊されるというのであれば理解できるのだが、CDのような読み込みしかできない記録媒体でさえも破壊される情報震というのはどんなものなのだろうか。
たぶん、それは実態のある物理的な現象というよりもある種のメタファーのようなもので、物語の中では明らかにされることはないのだろうと思っていたのだが、読み進めて行ったらそんなことはなかったので驚いた。
さらには、どうやったら結びつくのだろうかさっぱり予想もつかない2つの視点も神林長平の言葉によって綺麗に結びつき、それはつまるところ、神林長平が過去の作品群の中で語っていたことを再び語り直しただけに過ぎない部分もありながら、それでいて、どんな途方も無い出来事であっても神林長平の言葉にかかれば、解体され、そして力強い物語として再構築されるのである。
なにか新しいものが生み出されるのではなかったのだ、最初から答えは神林長平の元にあり続けていたのだ。

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