『リバース』北國浩二

  • 著: 北國 浩二
  • 販売元/出版社: 
  • 発売日: 2012/7/17

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『リバース』という題名でなおかつ、単行本時に乾くるみが帯の惹句を書いていたので時間物の話だと思い込んでいた。
実際に読んでみると、予知能力を持つ人間が登場し、その予知で知った未来の悲しい出来事を未然に防ぐために奔走するという物語だったので、あながち間違いではなかったのだが、予知能力そのものはあくまで未来の出来事を知るためだけの手段であり、SFとしての比重など殆ど無くミステリとして楽しむ物語だった。
主人公は物語の冒頭で恋人にふられてしまう。彼女に新しい彼氏ができたためだ。そして彼女の新しい恋人は主人公の知り合いだった。それからしばらくして、主人公はその恋人が殺されてしまうという映像を見る。未来を予知したのである。そして犯人として浮かび上がった映像には恋人の新しい彼氏の顔があった。
それが本当に予知したものなのかどうかに関してはあまり論議されない。あくまで主人公はそれが起こりうる未来の出来事であると信じて疑わない。一方で主人公を取り巻く仲間たちは主人公の行動に疑問を持つ。
読者は、主人公が見た映像は主人公の幻覚にすぎないのかそれとも本当に起こる出来事なのか、信頼出来ない語り手ともいえる主人公の行動を通してしか物語の展望が見渡すことができないのである。
丁寧に伏線が貼られているので一見無関係にみえる人々が何らかの関係があるということが早い段階で予測がついたりするのだが、それは別に欠点などではなく、むしろ作者の誠実さの現れのひとつでもあり、最後になって明かされるタイトルの『リバース』の意味は、一抹の希望を与えてくれる。

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