解説によると、『大きな森の小さな密室』が売れているらしい。
確かに、近所の書店では増刷がかかったオビ付きで、平台の上に置かれていた。
小林泰三の本が売れるなんてある意味世も末だという気持ちもしないでもないけれども、売れないより売れたほうがいいわけだし、本が売れれば新作が出る可能性も増えるわけで、作者にとっても読者にとっても喜ばしいことでもある。
しかし、『大きな森の小さな密室』で初めて小林泰三の小説を読んだ人が次になにを読むのが一番いいのかというとなかなか難しい問題のような気もする。
で、今回の短篇集はというと、さり気なくクトゥルフ神話を混ぜ込んだ話もあり、全体としてはやはりいつもの小林泰三の世界で、それでいて一般受けしそうなレベルでまとめて、比較的穏やかな話が多いということを考えると、『大きな森の小さな密室』の次に読むのに手頃な本かもしれない。
表題作の「完全・犯罪」はタイムマシンで過去にさかのぼって殺人を犯すという話なのだが、追尾装置付きの爆弾を過去に送りつけて殺人を犯すという点がミソで、そこからちょっとめまいがしそうな論理展開を見せる。ギャグだといえばギャグなのだが、過去の改変が未来に到達するのにどのくらいの時間がかかるのかということを真剣に考え悩む主人公が素敵だ。
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