いろいろな小説を読んでいると感情移入しにくい主人公というのがたまにある。
主人公の考え方や行動が自分の好みに合わないというのがその理由の過半数で、残りの部分の大半は作者の書き方と読み手の理解のしかたの食い違いで読んでもピンと来ないせいだ。
しかし、この小説の場合は上記のどれにも入らない。
主人公の性格も行動もごく普通の人間らしい設定だし、文章も読みやすくわかりやすい。
単に主人公の職業が税徴収官であるという理由だけで感情移入しにくいのだ。
というのは半分冗談だが、おそらく日本の職業の中でもっとも嫌われている職業の5本指には入るだろうと思われる職業を主人公の職業に設定し、なおかつその職業の世界を描くというのはなかなかそう簡単には思いつかないし、思いついても書くのにためらいが出るだろう。
しかし、どんな職業を描いても、その職業に誇りを持って職種を全うしている人たちを描いている限りは主人公たちに共感し、そして実際の世界においても、そういう人達が社会の一端を担っているのだと思うとまだまだこの世界も捨てたものではないなと思えてくる。
この本はそういう元気を与えてくれるのだ、それがたとえこの本を読んでいる間だけであったとしても。
コメント