『ぬばたまの…』に比べるとあまりおもしろくないなと感じたのは、主人公が飛ばされる世界が異世界ではなくありえたかもしれないもう一つの日常の世界だったからなのだが、しかし一方で、あからさまな異世界を構築するのではなく、今と地続きな世界に飛ばされるということで、SFというよりもホラー的な展開を見せていく。
さらには主人公は一度ならず計四回、平行世界を移動していくことになるのだが、移動するたびに徐々に元の世界との変化の度合いが大きくなっていく。
主人公が作者を彷彿させる人物で、そこで描かれる世界が作者の実体験を根底にした世界であるがゆえに好き嫌いが別れるところなんだけれども、そういった部分も話が進み、元の世界との違いが大きくなるに連れてあまり気にならなくなってくる。そして最初の変化の少なさが徐々にボディーブローのように効いてきて、平行世界を漂流するだけではなく、二ヶ月という期間を延々と繰り返しているという点も含めて、主人公がたどり着く結論というか主人公が受け入れることとなる容赦無い結末に恐ろしさを感じるのだ。
表題作以外の短編も同じような傾向の話が続くので、続けて読むと陰鬱な気分になるのだが、タイムパトロールを扱いながらも主人公の視点が違う方向へと向かっている「暁の前」の異質さ、「傾いた地平線」とは異なり、異世界へと行きながらも主人公がそれを受け入れる「潮の匂い」あたりはまだ救いがある話になっている。
しかし、こうして一連の小説を読むと、眉村卓ってニューウェーブSFの書き手でもあったんじゃないかと思うのだ。
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