吉田聡といえば、大抵の人は『湘南爆走族』を思い出すのだろうけれども、僕の場合は『スローニン』だ。
確かに、最初は『湘南爆走族』の人で、『湘南爆走族』が扱っている題材にまったく興味のなかった僕は読もうとも思わなかったし、気にかけもしなかった。
のだが、その当時読んでいたビッグコミックスピリッツという雑誌で吉田聡が『スローニン』という漫画を連載し、文芸雑誌の場合は掲載されている小説は読まないくせに、漫画雑誌の場合はつまらない漫画であろうがなぜかすべて読んでいたので当然のごとく『スローニン』も読んでそして、吉田聡に対するイメージがガラリと変わった。
まあ『スローニン』に関してはそれくらいにしておいて、『七月の骨』だ。
ここしばらく吉田聡の漫画を読んでいなかった。というか『ジャイアンツ』以来読んでいないので10年以上新作を読んでいない。というのも『ジャイアンツ』が実は一巻とナンバリングされていながら二巻が出なかったせいも多分にある。今でも二巻が出るのを待ち続けているのだが、多分ムリだろう。もちろん、続きが出ないのにはいろいろな事情があるのだが、なんだか吉田聡に騙されたような感じがしたのだ。そんなわけでなかなか吉田聡の新作を手に取るきっかけが掴めないままでいたのだが、吉田聡が半自伝的な漫画を書いたということで興味が出た。
それはいい意味ではなく、吉田聡も自伝的な漫画をとうとう描いてしまったのかというガッカリ感みたいなものだ。
もちろん、作家が何を書こうが自由なのだが、過去を振り返るのはもっと先でもいいだろうという気持ちが強かったのである。久しぶりに読んだ吉田聡の漫画は、なんだか往年の輝きが消えているような感じがした。
というか、主人公は最初から挫折している。
もちろん、今までの吉田聡の主人公も挫折していたけれども、挫折する前に輝いていた時期があり、それが何らかの理由で挫折して立ち止まってしまうのだが、最後には再び前へと歩き出していた。
しかし、今回の主人公は最初から立ち止まっていて前へと向かわない。ある意味今までにない新しい主人公でもあり、もっとも吉田聡の漫画のブランクが長いので、以前にも同じような主人公を描いていたこともあるのかもしれないが、このなかなか歩き出そうとしない主人公、というか作者自身なのだろうけれども、この主人公が巻を重ねるに連れて少しずつ歩き始めてそしていろいろなことを学んでいく様子は、僕が好きだった吉田聡の世界であって、4巻目にしてようやくこの漫画は最初から輝いていたのだということに気付かされたのだった。
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