『私を知らないで』白河三兎

  • 著: 白河 三兎
  • 販売元/出版社: 集英社
  • 発売日: 2012/10/19

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いろいろな事情があるのだろうけれども、まさか集英社から描き下ろしの文庫として三作目が出るとは思わなかった。
オビや解説ではべた褒め状態なのだが、心機一転という事かもしれないけれどもでは、作風が変わったのかと思えばそんなことはなく、先の二作と同じ雰囲気と香りを持つ文章と物語の展開だったので、ある意味安心して読むことができた。
メフィスト賞を受賞してデビューした作家ということで、ついついミステリとしての面白さを期待してしまうのだが、今回はミステリとしての面白さを期待してしまうとちょっとがっかりしてしまうかもしれない。というのも丁寧に伏線を張っていすぎるためになんとなく真相が予測できてしまうからだ。
もっとも、謎解きが主体ではなく、といっても謎の部分が物語の機動力となっているのだけれども、主人公たち二人が最終的にどんな地点にたどり着くことになるのかという部分が興味の主眼であって、それは冒頭の部分がどのようにラストに結びつくのかという部分でもあり、同時に主人公たちが今の境遇からどのように脱出するのかという部分となるのだ。
しかし、ラストは別な意味で驚愕のラストで、いくらなんでも無理がありすぎるんじゃないかという気もして、それはもちろん作者も自覚していたに違いなく、強引すぎる展開をするのだけれども、しかしその驚愕のラストはこの物語の本当の凄さの部分ではなく、その後の、冒頭の部分からダイレクトにつながるエピローグの部分であり、この物語はハッピーエンドでありながらも、実に複雑な感情を抱かざるをえないというところに着地するのだ。

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