宮内悠介の短編小説に「スペース金融道」というのがある。
宇宙を舞台に債権取り立てるという話で、『ナニワ金融道』の宇宙版といった趣でもあるが、あれのクトゥルー版とでもいうべき話がこの『邪神金融道』だ。
僕はラブクラフトのクトゥルー神話を読んでいないので、この本のあちらこちらに仕掛けられたネタの大半は多分気が付いていないだろう。だからといって面白くなかったのかといえばそんなことはなく、クトゥルー神話を知らない人でも最低限の予備知識は作中で語られる、というか主人公がクトゥルー神話とは全く無縁のごく普通の金貸しで、それに対して同僚の一人がクトゥルー神話に詳しい人物という設定なので、要所要所でクトゥルー神話に対しての解説が入るという親切な作りになっているので知らなくても安心だ。
面白いのはやはり、主人公がクトゥルー神話というものを全く信じていないという点と、特撮マニアであるという点だ。物語が進むに連れて、どうみても邪神の力によるものとしか思えないような現象が主人公のまわりで起こるどころか、邪神すらも主人公の前に姿を表わすのだが、主人公はそれらを自分を騙すためにハリウッド並みの特撮技術でもって見せつけているのだとかたくなまでに解釈し納得し続けるのである。
あまりにもごく自然に主人公がそんなふうに解釈して納得し続けていると、読んでいる方も、この物語が邪神のしわざと考えるよりも特撮技術のしわざと考えたほうが正常な人間の考え方ではないかと思うようになってくるから不思議だ。
とはいえども、主人公がかたくなに特撮技術のしわざであると思い続けていても、事件そのものは邪神たちのしわざで、腕っ節はたつけれども、それは人間同士の間における強さであって、邪神たちからみればごく普通の人間にすぎない主人公がどのように邪神達と対等に渡りあって金貸しをするのかというところにこの物語の面白さがある。
この主人公でもってシリーズ化して欲しい気持ちもあるけれども、この結末じゃあちょっと無理か。
コメント
初めまして、「邪神金融道」ご購入ありがとうございます。
主人公の「おれ」が頑なに怪異現象を信用しないところが本作の面白さになっていると思います!
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http://www.soudosha.jp/Cthulhu/jasinkinyu.html
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今月は「妖神グルメ」も復刊いたします。
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