この本を読む前に、隆慶一郎の『影武者徳川家康』を読んでおくべきなんじゃないかと思ったのだが、『影武者徳川家康』は文庫にして上中下巻の三分冊でしかも分厚い。こんなことならばもっと昔に『影武者徳川家康』ぐらいは読んでおくべきだったんじゃないかと後悔することひとしおなのだが、いまさら後悔しても仕方がない。どうせ後悔するならばとことん後悔すればいいやと開き直って、『影武者徳川家康』は読まずに先にこちらのほうを読むことにした。
で、初めての荒山徹だ。
伝奇小説というのはわりと好きで、いつかは荒山徹にも手を出してみようと思っていたのでちょうどいいタイミングだった。
徳川家康と、題名こそはシンプルなのだが、その後ろにトクチョンカガンと付くと、それだけでなにやら怪しげな雰囲気が漂ってくる。僕は韓国語はさっぱりなのだが、それでもトクチョンカガンという言葉の響きからしてなんとなく韓国っぽい雰囲気が漂ってくる。ではトクチョンカガンとは何なのか。と大げさに構えなくても、これまた、なんとなく、徳川家康を韓国語で発音するとトクチョンカガンとなりそうな感じがする。
では、徳川家康と韓国がどのように結びつくのかというと、まあ、驚いた。
『影武者徳川家康』では徳川家康が関ヶ原の合戦で死亡してしまい、その死を隠すために影武者であった世良田二郎三郎が家康となり入れ替わっていたという話なのだが、荒山徹の場合はさらにもう一捻りして、その世良田二郎三郎が日本人ではなく、朝鮮人だったという設定なのである。
表向きは史実と同じように進むのだが、裏の部分では世良田二郎三郎は朝鮮人であり、祖国を踏みにじった豊臣家に対しての復讐を胸に秘め、そしてさらには自身が天下統一をすることで日本人に対して復讐をしようとする。結果、読み手としてはなんともいえない複雑な思いをかかえたままこの物語を読むことになるのだ。
さらには、特殊能力を持った朝鮮人忍者と真田幸村率いる真田十勇士たちとの闘争、世良田二郎三郎の行動を阻止しようとする家康の息子、秀忠との対立など、まるで山田風太郎の、忍法帖シリーズと明治物シリーズを組み合わせたかのような展開をする。
しかし、単純明快なエンターテインメントに仕上がっていいながらも最後の最後でじつに後味の悪い驚愕のオチをつけているところが、個人的には今ひとつな部分だった。
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