『地上の記憶』白山宣之

  • 著: 白山 宣之
  • 販売元/出版社: 双葉社
  • 発売日: 2013/1/12

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見聞ながらまったく知らない作家だった。
しかし寡作な作家だったから知らなくても無理もない気もするが、その人が物故してから初めて知るというのはなんだか物悲しい部分もある。
知らない作家の本を買う、特に漫画の場合は絵の好き嫌いというのがあるので、どんな絵柄なのかもほとんど知らずに買うというのは勇気がいるのだが、今回の場合は表紙に描かれた絵よりもこの本の出版に携わった人たちを信頼して買って見ることにした。
そして結果としてはそれが当たりだった。
強いていうならば、『童夢』以前の大友克洋の作風に近い雰囲気を持つ作家で、ちょうど僕の琴線に触れる作風だった。
古くは1979年、新しくは2003年に描かれた漫画が収録されている。むろんそれだけの年月が経過しているので絵柄の変化はあるのだけれども、今の視点で見てもなんら遜色ない作品ばかりだ。
小津安二郎の世界を漫画に変換した「陽子のいる風景」や「ちひろ」。時代物の「Picnic」と「大力伝」。とくに「Picnic」のセンスが素晴らしく、表紙は60年代のアメリカ風の絵で、日本の戦国時代の話なのにこんな絵を表紙にしてしまうのが素晴らしい。もちろん内容の方も表紙に負けず劣らず素晴らしいのである。
一番古い「Tropico」は現代の冒険物。もっとも現代といっても描かれたのが1979年なので、今となっては現代とは言いにくい面もある。「Tropico」は読んでみると、前編後編というボリュームでありながらも、長編のダイジェスト版のような感じなのがちょっと物足りないのだが、こればかりは仕方がない。
この本が出版されたことにより、白山宣之の娘さんが、「地上の記憶」というブログを立ち上げられた。このブログで未発表の原稿などが掲載されているのだが、その絵は驚くばかりだ。
埋もれたままになっている残りの作品もなんとかして出版してほしいものだと思う。

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