『恋肌』という題名で出た本に一遍短編を追加し、改題して文庫化されたものだ。
桜木紫乃は村田沙耶香と比べると精力的に作品を発表している。
彼女の作品を読むのはこれで三冊目、短篇集としては二冊目。『氷平線』に収められた作品と比べると、若干、幅が広くなった感じがする。というのも『氷平線』の場合はどの話からも何かしらの閉塞感が感じられたのだが、今回はそれが少ない。もっともそんな風に感じるのは僕が男だからかもしれない。
というのも基本的に桜木紫乃が描くのは女だ。といっても語り手が女性だというわけではない。視点人物が男である話も多いのだが、しかし、男が視点人物であってもそこで描かれるのはというか主人公は女なのだ。
男である僕はどうあがいても女にはなれないわけであって、どうしても男の視点で物語を読んでしまうのだ、だからほんの僅かな書き方の違いで、閉塞感が生まれたり消えたりしてしまう。
それと同時に、桜木紫乃が描いているのが北海道という土地だということも影響するだろう。
ある特定の土地を舞台にした小説しか書かない、という作家はそれほど珍しくはないのだが、桜木紫乃のような描き方をする作家となると少ないのではないだろうか。その違いをうまくは言えないのだが、例えて言うならばコーネル・ウールリッチを彷彿させるといえばいいかもしれない。
ウールリッチが都会を自分の物語に必要なエッセンスの部分だけ取り出して都会らしい都会を描いたように、桜木紫乃も自分の物語に必要な北海道を取り出して描いているように思える。そういう意味では桜木紫乃がミステリを書いてもなんの不思議でもないのだと思うのだ。
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