『名探偵クマグスの冒険』東郷隆

  • 著: 東郷 隆
  • 販売元/出版社: 静山社
  • 発売日: 2013/1/10

Amazon

南方熊楠がロンドンで大暴れ。
といってしまうとちょっと語弊があるけれども、博覧強記の南方熊楠がロンドン滞在中に巻き込まれた様々な事件を快刀乱麻で解決する短篇集だ。
舞台はロンドンと異国であっても、時代は明治、その時代において史実と虚構を織り交ぜる物語というと山田風太郎の明治物を思い出すのだが、山田風太郎の明治物とくらべてしまうとちょっと分が悪いのは短編というせいもあるだろうけれども、虚構の部分における物語の飛躍が少ないというか、作者の生真面目さがでているせいかもしれない。
そもそも、南方熊楠とういう人物からして「歩く百科事典」とも言われる人物だったので、彼の手にかかれば謎は謎ではなく、あとは物的証拠を探し出すだけという作業に終始してしまうという状況でもあるので、謎解きという面では物足りないのもしかたのないことだが、逆に言えば、主人公を南方熊楠に変えたシャーロック・ホームズの物語であるとも言える。
そのような読替えをして読んでみると、確かに面白い。しかし、ワトソン役らしいワトソン役が登場しなかったり、モリアーティ教授のような宿敵も登場しない。唯一、孫文が登場する話は彼が南方熊楠に匹敵するだけの人物であるだけに読み応えがある。
そういう点では、書き用によってはまだまだ面白くなりそうな話なのだが、今のところこの一冊だけで終わってしまっているのが残念なのだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました