出版芸術社の<眉村卓コレクション異世界篇>も無事完結した。
コレクションの最後となった『夕焼けの回転木馬』を読むと、このコレクションの最初が『ぬばたまの…』で次が『傾いた地平線』、そして最後が『夕焼けの回転木馬』というのは絶妙の順番だったと思える。
というのも『夕焼けの回転木馬』は他の作品に比べて難易度が高いのだ。多分、異世界編というくくりで読み手の意識を学習させておかなければ、いきなり『夕焼けの回転木馬』を読んだとして、この小説の面白さがどこまで理解できたのだろうかと思う。
表層レベルで言えば、作者の分身ともいえる人物が二人、さらには作者自身ともいえる人物によるモノローグ的なものを含めて計三人の視点の物語が交互に描かれるのだが、モノローグの部分はさておき、分身の二人が体験する不思議な出来事は、一人は過去に飛ばされた後に未来へと進む体験であり、もう一人は自分が選択しなかった世界に侵食されるという体験をする。
一方は過去、一方は未来を受け持っているともいえるのだが、何といえばいいだろうか、ここで眉村卓が行なっている事柄はそこから想像するようなところには到達などはしない。
主人公たちに何故そのような事が起こったのかというSF面における説明はされないままなのだが、重要なのは何故起こったのかではなく、そこからどんな結論に至るのかということであり、出発地点からの飛躍ぶりにあらためて驚かされるのだった。
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