基本的にこのシリーズはそれぞれの巻どうしでつながりはなく、パラレルな存在だというようなことを作者が書いていた記憶があるのだが、今回は珍しく、過去の作品とつながりがある設定が登場する。
それはある意味、このシリーズが新たな局面を迎えたという作者なりの意思表示のようなものかもしれないが、一方で単なる読者サービスにすぎないのかもしれないし、そもそも、パラレルであるからしてつながりがある場合もあるというだけに過ぎないのかもしれない。
が、今回の話がラジェンドラによる記録という構造をもっていることを思うと、ひょっとするとひょっとして、複雑な構造をもった話になるのかもしれないと意気込んで読んでみたのだが、結果としてはそんなことにはならなかったのは少し残念。
とはいうものの、ラジェンドラという人工知性や、Q空間というガジェットに対して、今まではそんなものだというレベルで詳しい説明まではなされることがなかった事柄に対して、深く原理的な説明がなされている点は興味深い。
いずれはアプロという存在に対しても神林長平流のアプローチと解釈がなされるかもしれないのだが、アプロはそのままでいてほしいという気持ちもある。ただ、今回はアプロは全然活躍をしなかったので残念なんだけれども、記述者がラジェンドラであるということで、意識的に活躍の場が消されたのかもしれない。
終盤が駆け足的になってしまったせいで物足りなさが残ったままなんだけれども、それでもそれなりに満足できるのは、神林長平がどんな場合においてもゆるぐことのない強い意志を主人公達に持たせているからだろう。このシリーズにおいてはそれは「敵は海賊」という言葉であり、ラテルやアプロたちにとって世界が不確かになってしまうような事象が起こっても、それが正しいかどうかは関係なくこの言葉は唯一普遍のゆるぎない言葉であり事柄であるのだ。
だから、神林長平の紡ぐ物語は常に力強いのである。
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