19年という歳月は長かった。
作者のあとがきによると、これまたとんでもないことが書いてあったりするが、そのとんでもないことはさておいて、この作品がこの作者のデビュー作で、デビュー作を短編であればもっと上がいるけれども長編で19年も描き続けたというのはなかなかのものだと思う。
吐鉤群が登場したあたりから、それまでの単純な物語が一変して、主人公万次たちと、敵対する逸刀流、そしてさらに逸刀流に敵対する無骸流の存在が複雑な関係をつくりだして、その一方で、主人公の万次の存在がどんどんと薄くなっていったのだが、結果としてはそれで良かったのかもしれない。
とくに、これだけの物語の結末というか最後の決闘を誰と誰との戦いにするのが、誰もが納得する最後の戦いであるかといえば、それは万次と天津影久の戦いではなく、吐鉤群と天津影久との戦いである方がいいのだ。読み手としては天津影久の方に勝ってもらいたいという意識がどこかで働き、そしてそのとおりになる。で、その後で万次と天津影久の戦いが、エピローグて的な形として始まる。
物語の最大の山場は吐鉤群と天津影久であり後は、おまけなのだ。
とはいうものの、浅野凜の天津影久に対する答えがしっかりと描かれていたのには驚いた。ひょっとしたら、許してしまうのではないのだろうかと思っていたからだ。しかし、そこは、ある意味外道な漫画を描く作者だけあって、というわけではないが、やはりそんな甘い感傷ごととは無縁だったのだ。きっちりと迷いを断ち切らせて終わらせた。
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