村上春樹がレイモンド・チャンドラーの小説を翻訳しなおしたり、小尾芙佐がロバート・A・ハインラインの『夏への扉』を翻訳しなおしたり、光文社では光文社古典新訳文庫という新たなレーベルをたちあげて精力的に古典を翻訳しなおしたりしている。
海外の小説は定期的にいわばお色直しをされて新しい装いで紹介される。その点で日本の小説には無い特典を持っているともいえる。
しかし、新たに翻訳されなおした方が、昔の方よりも良いのかというと必ずしもそうともいえず、レイモンド・チャンドラーの場合は清水俊二訳では省略されていた部分を原文に忠実に翻訳しなおしたという面もありながらも、清水俊二訳の価値がなくなってしまったのかというというわけでもない。
福島正実訳の方が古臭い感じはするけれども、小尾芙佐の方が良いのかというと必ずしもそうとも言えないのは、やはり古びてしまっていても名訳と呼ばれただけの文章だからだろう。
で、今回、チェスタトンの<ブラウン神父>シリーズの一作目が新たに翻訳されなおした。
僕が東京創元社版の『ブラウン神父の童心』を読んだのはかなり昔のことだったので、どんな感じの訳だったのかすっかり忘れてしまっていたので今回の翻訳は新鮮な気分で読むことができた。
そういう意味では多分、今回のほうがチェスタトンの文章というものをより理解しやすいのかもしれない。そのくらい、新鮮な驚きがあったのだ。
しかし、東京創元社の中村保男訳がダメなのかというとそんなこともなく、比較してみると、古びているのはしかたのないことだが、これはこれで趣があってなかなかよいのだ。
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