重松清の『とんび』を読んだあとではだいぶ分が悪い。
『とんび』は父と息子の関係だが、こちらは父と娘の関係。
さらに、そこにミステリの要素が加わってなおかつ連作短編で、ページ数も少ないとなると比べるのが間違っているとしかいいようがないのだが、妻を亡くして、幼子を自分一人で育てていくという設定が共通であると、どうしても比較してしまう。
さらにいえば、『とんび』の父親はガサツで、不器用で、めんどくさい人物であるのに対して『ハルさん』の父親はそれとは正反対に近い人物として描かれていて、そして、基本的に善人しか登場しない。もちろん『とんび』も善人しか登場しないのだけれども、『とんび』は現実的な人物であるのに対して、『ハルさん』のほうは現実にも存在するだろうけれども、どちらかというとファンタジーに近い善人だ。
僕が物足りないと感じた一番の理由はミステリとしてどうのこうのというよりも、この物語で描かれる人物のファンタジー性の部分だろう。
しかし、作者のあとがきを読んで、この物語が何故そのようにファンタジー性を帯びているのか理解できた。最初からこの作者はそのように書いていたのだ。
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