奥付の日付をみて驚いた、2000年に再販がかかっていたのだ。初版は1978年。
1978年といえば角川文庫のほうで<ドートマンダー>シリーズが出ていた時期のちょっと後付近になる。
そのころの早川文庫のウェストレイクの本といえば表紙が楢喜八で、楢喜八といえば僕にとってはホラー系の物語の挿絵を書く人という印象が強く、角川文庫の<ドートマンダー>シリーズは読んだのに、早川文庫の方のウェストレイクの小説は手に取ることが無かった。
今でも楢喜八の絵を見ると、なんだか居座りの悪い変な感覚に襲われるのだ。もっとも、楢喜八の絵は嫌いではないけれども。
この本は、小鷹信光による日本オリジナル編集の短編集で、当時からそれだけウェストレイクの人気は高かったはずなのだが、高かったのは一部の人たちだけだったみたいで、それから徐々に翻訳が減ってしまった。それでも数年に一冊くらいのペースで翻訳されているのでましな方だと思う。
小鷹信光による編集だけあって、犯罪学講座という装いがされ、全13篇の短編のそれぞれにオリジナルの副題というか講義名が付けられているという凝ったつくりになっている。
収録作の内容に関しても、コメディからシリアスまでバラエティに富んでおり、コメディに関しては安定したウェストレイクのコメディぶりが堪能できるし、シリアス物に関してはコメディ以上にウェストレイクの才人ぶりが発揮されていて驚かされる。
旅客船が沈没し、密閉された室内にいたおかげでかろうじて助かった二人の男の運命を描く「死への船旅」のラストの衝撃。
病に倒れ、痛みに苦しむ夫を救おうとした妻がとった方法とその悲しい結末の「慈悲の殺人」。
一人の男が殺され、捜査に乗り出す主人公の老刑事の悲しい結末を描いた「ろくでなしの死」などは、オリジナルとして付けられた副題がネタバレになっているが、軽めの作品が多い中、ずしりとくる重さがある。
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