電子書籍化されていたので読んでみた。
大雑把にいえば、人間には早い思考と遅い思考の二つの思考方法があって、この本の中では、前者をシステム1、後者をシステム2と呼んでいる。
で、早い思考ってなんだといえば、経験に基づく直感で、遅い思考は論理的な考えに基づく判断のことだ。
経験に基づく直感というのは何かをすばやく判断するのには役に立つのだけれども、必ずしもその判断が正しいとは限らない。それじゃあ、経験に基づく直感なんて使わずに、遅いけれども、論理的な考えに基づく判断をすればいいじゃないかという結果になりそうなんだけれども、遅い思考にはデメリットがあって、要するに、すべての判断を遅い思考で行おうとするとものすごく疲れるし、日常生活にも支障が現れてしまうということだ。
それって、結局、人工知能が抱えるフレーム問題と同じともいえる。それじゃあ、人工知能のフレーム問題を解決するためには、人工知能にも直感のシステムを組み込めばいいんじゃないかって思うけど、それをやったら結局、人工知能も人間と一緒でたまに間違いをするってことになってしまう。たまに間違いをしてしまう人工知能に利用価値があるかどうかだ。
早い思考と遅い思考の違いをさまざまなデータを駆使して説明しているのだが、大抵の場合、重要な場面になればなるほど早い思考で行動した場合、失敗する結果に結びつく。なんでも早ければいいというわけではない。もちろん、失敗するリスクをどこまで許容するかという問題もからんでくるので、リスクを背負う覚悟があるのであれば早い思考のみで行動しても構わない。
では、リスクを背負う覚悟がないので遅い思考をしようと考えたとしよう。でも、そこにも落とし穴がある。
リスクを伴うプロジェクトの結果を予測するときに、意思決定者はあっけなく計画の錯誤を犯す。錯誤にとらわれると、利益、コスト、確率を合理的に勘案せず、非現実的な楽観主義に基づいて決定を下すことになる。利益や恩恵を過大評価してコストを過小評価し、成功のシナリオばかり思い描いしまう。
といった、早い思考と遅い思考を選択する以前からすでに早い思考というものは始まっているという驚くべき事実をこの本では明らかにしていたりする。
さらには、
ごくふつうのまっとうな人間でさえ、発作を起こした人を助けるなどというあまりぞっとしない仕事を他の人がやってくれそうだと思ったら、自分はすぐには行動しないのである。
といった、日常における問題も浮き彫りにさせている。
さらにはこの、助けを求める声を聞いた人がほかにもいるとわかっている場合には、人は自分の責任を感じないという驚くべき出来事は、単に作者の頭の中だけで導いた結論ではなく、実際に行われた実験結果から導き出しているのだ。
そして最終的には、人の認知という問題にたどりつき、人はどこで物事のせんびきをするのだろうかという問いへとすすむ。お金があれば人は幸せになるかという問題で、作者は所得が増えるほど生活の小さな楽しみを味わう能力が減ってくるのではないか、と書いている。
この小さな楽しみを味わう能力が減るという考え方は目からうろこが落ちる思いだった。ただ、これはお金が無くても幸せであるということを指し示しているわけではないよね。
お金がなくても幸せと感じることはできるのだが、それはあくまで小さな幸せであって、お金がなければ基本的に不幸せになる確率は増大するよ。
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