『櫻の園 完全版』吉田秋生

  • 著: 吉田秋生
  • 販売元/出版社: 白泉社
  • 発売日: 2013/9/5

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『櫻の園』の完全版が出ると聞いて驚いた。
僕がその昔読んだ『櫻の園』は完全版ではなかったのだ。
では、今回の完全版ではなにが追加されているのだろうか、僕が読んだのは単行本化されたものであって、ひょっとしたら雑誌連載時と単行本とではなにかしら変更がされていたのかもしれない。
などとちょっとワクワクしたのだが、実際のところは各話のカラー扉が収録されただけであった。
といいながらも、たったそれだけであっても、この本を再び手に取る価値はあるのだ。
作品時代的には『吉祥天女』や『河よりも長くゆるやかに』の後、大友克洋の影響を受けていた時代から変化しつつあるころなので、どんな絵柄だったのかおおよそ想像がつくはずだった。のだが、実際に読んでみると絵柄は想像していたのとだいぶ違った。『櫻の園』を読んだのは何しろ1980年代後半なので、記憶にもかなり思い出補正がかかっていたようだった。
そんなわけで、ほとんど初読に近い感じの再読だったのだが、主人公たちの髪型や、会話の端々に登場する単語、彼女たちの言い回しなど1980年代そのもので、特に携帯電話など無かった時代なので、彼氏からの電話も家の電話にしかかかってこないし、その電話を親が取って気まずい思いをするというエピソードなどは今では通用しないエピソードなんだけれども、同時代に同じようなことを経験した身にとってはなんとも言えない懐かしさと物語に対する身近さを感じるのだ。
では、そういった古びてしたった事柄が描かれているからすでに物語そのものを古びてしまっているのかといえばそんなことはなく、時代に沿った身近な描写を使いながらも根底にあるのは時代にとらわれない普遍的な感情であって、その取り混ぜ具合のバランス間隔が吉田秋生の素晴らしいところなんだろう。

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