栄えある第1回日本SF大賞受賞作でありながら、受賞したことで悲しい出来事が起こってしまった本だ。
徳間文庫版には小松左京が解説を書いていて、太陽風交点事件のことを知った上でこの解説を読むと悲しい気持ちにさせられる。
この本に収録された短編のうち、「最後の接触」と「暗黒星団」は<情報サイボーグ>シリーズとして、後にハルキ文庫から『地球環』としてまとめられている。しかし、番外編的な「イカルスの翼」は『地球環』には収録されていない。
表題作の「太陽風交点」と「遺跡の声」は<トリニティ>シリーズと呼ばれるが、アスペクトノベルスから『遺跡の声』としてまとめられ、さらにその後に一編追加され創元SF文庫でまとめられた。
では、まとめられなかったものは質が落ちるのかといえばぜんぜんそんなことなど無く、このまま埋もれたままになってしまうのは惜しい作品ばかりである。
物質電送による移動の際に起きた事故によって、別の宇宙へと電送されてしまった学園都市を巡る物語である「電送都市」における、情報の扱い方というものが面白い。情報の伝達過程で紛れ込む雑音から情報を守るために、情報に優先順位をつけて保護するという方法を用いるのだ。
結果、優先度の低い情報は捨て去られることとなるのだが、学園都市で起こった事故は多大な雑音を発生させ、都市に住む住人の情報はあらかじめ設定された優先度に従い極限的なまでにそぎ落とされてしまう。それはグロテスクな変貌なのだが、それでも人としての情報を維持しているのだ。
「悪魔のホットライン」においても情報という概念が重要な要素を占めていて、超光速通信とマクスウェルの悪魔の組み合わせというアイデアがすばらしいのはもちろんのことだが、主人公とマックスの関係における叙情性もすばらしい。
残りの作品群に関しても何らかの形で復刊してくれるとうれしいものだ。
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