江戸のまち、小名木川のほとりに住む女性たち。不幸な境遇にある彼女たちの流す涙は小名木川に流れていく。だからこの川の名は女泣川なのだ。
長いこと絶版状態だったけれども、こうして二冊を合わせた合本として復刊した。
都筑道夫の最高傑作とまでは言わないが、ベスト3を選ぶとすれば3位には入れておきたい作品だ。
ただ、欲を言えば合本ではなく、二冊として出てくれた方が良かった気もする。なんでそんな気がするのかといえば、やはり『べらぼう村正』と『風流べらぼう剣』とでは味わいが異なるからだし、分冊されるからこそ、その良さが出るのだと思う。
<女泣川ものがたり>シリーズは文庫化されたものを読んだのだけれども、読むきっかけとなったのは『神変武甲伝奇』を読んでいたからで、この中で登場した左文字小弥太が主役となる物語がこの<女泣川ものがたり>シリーズだったからだ。左文字小弥太が再登場するというだけで、当時はそれほど好きではなかった時代物を読んでしまうくらいなので、それだけ左文字小弥太の魅力が素晴らしかったわけでもある。なにしろ竹光でもって真剣を持った相手と対等に戦うのである。かっこ良すぎるのだ。
しかし、あらためて再読すると、この主人公の魅力の部分を取り除いてみた時に都筑道夫の持っている理の部分と情の部分が絶妙のバランスで構成されていることに驚いた。記憶の中では情の物語だと思っていたのだが、意外なことに情の部分の領域に理の部分が組み合わさって、ミステリとしても堪能できるのだ。後半になると、物語全体の着地地点を定め始めるので、理の部分が薄れ、貼られた伏線が次回へと持ち越しとなるので、単独の短編としての面白さが減少してしまうのはやむを得ないのだが、『べらぼう村正』の部分に関して言えば、短編として完璧に近い。
解説にもあるように、この作品で直木賞を受賞できなかったのが不思議なくらいだ。
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