『ラブレス』桜木紫乃

  • 著: 桜木 紫乃
  • 販売元/出版社: 新潮社
  • 発売日: 2011/08

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現在と過去の物語が交互に行き交うことで一人の女性の人生と、その姉妹の人生と、そして彼女の家族の人生が浮かび上がってくる。
物語は現代から始まる。
従姉妹から母親に電話をかけても出ないので様子を見に行ってほしいと頼まれ、自分の母親とともに伯母の家に向かうと、伯母は息絶えようとしていた。
そこから物語は伯母の子供時代の話に切り替わる。死にかけている伯母の状態と何が起こったのかという読み手の感心事などまったく無視して読者を置いてきぼりにするかのような場面転換であり吹き飛ばされそうな勢いのある力技だ。
そしてそこで語られる伯母の人生の物語は波瀾万丈で壮絶な人生なのだが、では彼女の人生は不幸だったのかというと、必ずしも不幸だったわけではない。それは、伯母の人生の物語が語られる一方で、彼女の妹の人生も語られ、過去に於ける姉妹の境遇と現代における彼女たちの境遇が巧妙な対比的な関係になっていて、読み進めるうちに彼女たちに対する感じ方がどんどんと変化していくからでもある。
その一方で、彼女達の娘の人生の物語、更には彼女達の母親の人生の物語が挟み込まれ、親子三代の複雑な人生の物語が描かれる。
そしてそのどの人生においてもこの本の題名通り、愛が無い。しかし、不思議なことに読めばそこに愛があるのがわかるのだ。

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