長らく絶版状態だったけれども東京創元社の復刊フェアで復刊された一冊。
しかし生憎と僕は、グーテンベルグ21から出ている電子書籍版をその少し前に買い、読んでいたのだった。今回の復刊は新訳でもなく表紙が新しくなっただけなので実質的にはどちらを読んでも支障はない。
イーデン・フィルポッツというと日本では『赤毛のレドメイン家』が一番有名で、それは多分に江戸川乱歩が絶賛したことによる影響が強いのだろうけれど、生憎と僕はこの本、持っていながら読んでいないので、評価ができない。
評価が高く有名すぎるので、手に入れたことで安心してしまって読まないというのが僕の悪い癖で、『赤毛のレドメイン家』もその一冊だった。
で、一番有名な『赤毛のレドメイン家』を読んでいないのでそれ以外の作品も読んでいない。読もうとすると、『赤毛のレドメイン家』を読んでいないことを思い出し、そこでストップしてしまうのだ。
それに『赤毛のレドメイン家』以外は創元推理文庫で本格ミステリではなくサスペンス扱いだったというせいもある。
しかし、サスペンスに分類されていた『闇からの声』が実はサスペンスでありながらも倒叙ミステリとしても読むことができるということを耳にして、これは読まないといけないなあと思うようになったのである。
で、実際に読んでみると、思っていたほど倒叙ミステリとしての面白さは少ない。そもそも、犯人が誰なのかという点については読者に対しても明らかにされてはおらず、物語の視点人物である探偵の思い込みだけなのだ。
つまり、誰が犯人なのかという点においては主人公が経験に基づく感によって決定し、それが正しいかどうかという主人公の行動に、読者は付き合わされるだけにすぎない。
しかし、他の登場人物を眺めてみてもはやし主人公が決めつけた人物以外に犯人らしい人物はいないので、読者も主人公と同じ結論をせずにはいられず、その一方で作者がとんでもないどんでん返しを用意しているのかもしれないという淡い期待を捨てきれないまま読み進めていくと終盤、探偵対犯人の頭脳合戦の展開となり、お互いに相手を騙し合うというコン・ゲーム的な展開になる。
ミステリというジャンル小説として読もうとするとおかしなことになるのだが、ミステリであるということを意識しないで読むと、なかなかおもしろい話で、それはイーデン・フィルポッツがミステリしか書かない作家ではなかったことに依存するのだろう。
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