主人公は、元イギリス情報局秘密情報部員。
ある任務で、スケープゴートとして情報部をクビになってしまう。さらには奥さんとの関係も悪化していて目下のところ別居状態。
そんなある日、かつての同僚から、時期イギリス情報局秘密情報部長官に就任予定の女性が自ら行方をくらまし、行方不明になってしまったという連絡を受け、さらには彼女と仲の良かった主人公ならば彼女の行方を突き止めることができるだろうからと、彼女の捜索依頼を受ける。
題名における甦ったスパイというのは主人公のことを指す。つまりこの物語は、スパイとしての人生を意図せず終わらされてしまった男が自らの人生を取り戻す話でもある。
チャールズ・カミングはジョン・ル・カレの後継とも言われているようなんだけれども、実際に読んでみるとル・カレっぽさはあるけれどもル・カレほど重厚でもなく、強いて言えばル・カレを軽くした感じでもある。もっとも軽くしたというのはけなし言葉ではなく、ル・カレだとちょっと重すぎると感じる人にちょうどいいバランスのスパイ小説という意味だ。
主人公にそれほど魅力があるわけでもなく、事件そのものも世界を揺るがすような陰謀というわけではなく、こじんまりした陰謀だし、事件が解決しても主人公の境遇はそれほど変わらいどころか、変えって悪くなってしまった部分もある。だったら、なにも魅力なんて無いじゃないかと思うかもしれないけれども、読んでいる間は飽きさせない展開だし、今、スパイ小説を書くとしたらこういう形になるのかなと思わせる内容であり、大した陰謀が起こらなくっても面白いスパイ小説を書くことはできるという良い見本のような物語だ。
何よりも主人公の境遇がスパイらしくなく、身近に感じられる人物像であるという点が他のスパイ小説との違いでもある。
『甦ったスパイ』チャールズ・カミング

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