サンリオSF文庫の中でも古書としての値段が最も高い一冊がとうとう復刊された。
この本が何故、古書としてこんなにも高い値段が付けられているのか不思議で、高い値段がつくのにはつくなりの理由というものがあるのだろうけれども、この本に関してはそれがよくわからなかった。
独裁者一族によって統治されるカリブ海に浮かぶ小さな島、そこで起こる殺人事件、容疑者として捉えられる主人公、政治犯としてとらえられた人々に対して行われる薬物による人体実験、そして主人公たちの脱出劇、とエンターテイメントとして面白くなる要素がありながらもまったく面白くならない。エンターテイメントしてのカタルシスが全くないまま物語が進み、そして幕が閉じるのだ。なによりも主人公自身が熱意のある人物でもなく、それでいてクールに構える人物でもなく、組織の中でそれなりに立ち振る舞うごく普通の人物として描かれている。
そのあたりがこの物語のユニークな点なのだが、実際に、読み終えてみてもこの本が何故こんなにも高い値段がついていたのかに関してはやはりわからないままで、まあ、こうして文庫としては決して安い値段ではないのだけれども、それでも妥当な値段で手に入れることができるようになったというのはありがたいことでもある。しかし、この本が復刊されたからといって、そうそう売れまくるタイプの本でもなさそうなので、ピーター・ディキンスンの未訳の本が翻訳される起爆剤にはならないだろう。
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