今回のラインナップを見てちょっと不思議に思ったのは野尻抱介の作品が選ばれていないことで、おかしいなと思って調べてみたらいつの間にか日本SF作家クラブを退会していた。
退会していなかったらこの巻かその前の巻のラインナップが変わっていただろうから、もしそうだったらというラインナップを考えてみるのも楽しいかもしれない。
さすがに、最後の巻になると既読率が高く未読は林譲治の「重力の使命」、高野史緒の「ヴェネツィアの恋人」、瀬名秀明の「きみに読む物語」と三篇。だからといって損をしたという気持ちは全くないのは、ある意味、このアンソロジー集そのものがお布施のようなものだという気持ちと、この巻単独ではなく、五巻セットで捉えているからだと思う。
特に、最初からそのような意図は無かっただろうけれども、結果として最後の物語が瀬名秀明の短編であるというのは、なんだか感慨深いものがある。
特に、一巻に収録された瀬名秀明による希望に満ちた巻頭言、そして突然の日本SF作家クラブ会長職の辞任と退会。それを踏まえた上で、この最後に収録された瀬名秀明の「きみに読む物語」を読むと、涙が出てくる。
まるで、この五冊のアンソロジーが瀬名秀明のために作られたアンソロジーであるかのようだ。
もちろん、そういった外部的な要因は抜きにして、単独で「きみに読む物語」を読んでも「きみに読む物語」の価値は減ずるものではない。瀬名秀明はグレッグ・イーガン的な部分から出発してイーガンが手を付けなかった領域を模索しているかのようにも思える。
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