まず、題名が素晴らしい。
雪男は向こうからやってきた、である。「雪男はいた」でも「雪男を探せ」でもなく「やってきた」だ。
そしてこの本はフィクションではなくノンフィクションなのだ。
では雪男は本当にやってきたのだろうか。
いや、いまだに雪男が発見されたというニュースは流れていないのだから、やってきたわけではない。
では、作者は雪男がいると信じている人なのかというと、この本を読む限りでは信じているわけではない。
雪男がいるとは信じていない人物が、成り行き上、雪男探索隊に参加することになってヒマラヤまで行ってしまうのである。
基本的に雪男の存在を信じていない人物が、雪男の存在を信じている人たちのことをまじめに描くとすると、こう描かざるをえないという、そのバランス具合が絶妙というか、これはもう、作者自身の誠実さの現れと考えるべきなのだが、読んでいて引き込まれる部分がある。
作者が雪男の存在を否定しているのはただ単純にいるわけがないと否定しているのではなく、様々な角度からその存在の可能性を考察したうえで、存在すると考えるのは無理があるという結論にいたっているわけで、読み手としてもその考えに同意をせざるを得ないわけではあるが、同時に、存在すると信じている人たちとの接点をどこに持たせるのか、あるいはどこに落とし所を持っていくのかという部分にこの本の一番の面白さというのがあって、それがプロローグとエピローグの部分にあたる。
ではプロローグとエピローグだけ読めば済むのかというとそんなことはなく、その二つの文章に挟まれた十章の物語を読むことで初めてその文章を挟む二つの文章の凄さがわかるのだ。
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