『死人妻』式貴士

式貴士研究サイト「虹星人」を運営されている五所光太郎さんによる式貴士未収録作品集。
といっても僕は熱心な式貴士ファンではなかったので、式貴士名義の本も文庫化されたものしか読んでいないし、しかも全部読んでいるわけではない。間羊太郎名義の『ミステリ百科事典』は読んでいたし、現代教養文庫版はもちろん、文春文庫版も買ったけれども蘭光生名義の本は一冊も読んでいない。
なんとなく中途半端なファンなので式貴士の小説が好きだと言ってしまうのには躊躇してしまう部分もあるけれど、未収録作品集が出るとなると読んでみたくはなる。
予定よりも早く印刷が終わったということでさっそく届いた本を手にとって見ると、実に贅沢な造りの本で、それだけでうれしくなってしまう。
収録作品も未収録作品を集めたといいながらも、巻頭にエッセイをおき、そこからそのエッセイの内容に対応するような内容の作品群が並ぶという構成は、ちょっとうまく出来過ぎているんじゃないかと思ってしまうぐらいによく出来た構成となっている。
「リモコン・レディ」は解題でも書かれているように、集大成のような趣もあり、これだけ読めただけでも儲けものという気もしてくるのだが、つくづく残念なのは表題作にもなっている「死人妻」が一章で中断している点だ。作中でJ・G・バラードの『結晶世界』に対する言及があり、さらには主人公の妻の結晶化を予兆させる展開は、式貴士の過去の同傾向の作品を思い浮かべると同時に、式貴士が描く結晶世界を読んでみたいという気持ちにかられる。
評論として収録された香山滋論、有馬頼義論、宮野村子論は、残念なことに三人共読んだことが無いのであまりピンとこなかった。いつかこの三人の作品を読んで、もういちどこの評論を読みなおすこととしよう。

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